ベッドサイドの碓氷峠【ヘアクリップ】

忘れ物は得意ですか? わたしは得意です。トトロが実在したらわたしの家と森を往復し続けてクタクタになることでしょう、かわいそうに。これまで数々の忘れ物を、ホテルやらお客さん宅やら待機室やらにおいてきました。中でも忘れがちなのが髪留めです。ぶっちぎりのダントツで髪留めが優勝です。いったいいままでいくつ失ってしまったんだろうと考えると落ち込むくらいなくしてきた。
どうせ消耗品だと割り切って100円ショップで買うこともあるんだけど、なんか、開け閉めの感触とか、留まる瞬間の感覚とか、あとバネの部分がサビてくる早さがやっぱり違うような気がしてしまう。ので、500円から1000円くらいのものを使うことが多いです。

シャワーを浴び終えてベッドに戻ってきて、まあその時々でいろいろですけど横になる前に外しますよね。んでベッドのそのへんに置くんですね。説明できない「そのへん」としか言いようのないエリアに。これがあらゆる小物を飲み込む魔性の「そのへん」なんだよ。
それでどうのこうののお時間があって、またシャワーに行くときにつければいいんですが、というか濡れるんだからつけたいんですが、諸事情で手が汚れていることがあるよね、っつうか汚れてるよね。わたしはよほどの大迷惑ヤロウでなければ唾液や汗あたりまではセーフにカウントしちゃう(嫌だよ?嫌だけど!)んだけど、唾液と涙と汗以外の体液やローションがべっとりついていたら髪は触れない。まとめるなんてできない。

だから、両手とも汚れてるんだけど、なのにもうありえないほど時間がない!!
……ってとき、タオルの端っこの端っこをつまみあげなんとなく二の腕の加減で身体に沿わせてシャワーに行き、もう毛先濡れてもどうでもいいわいと半ばヤケになってそのまま浴びちゃって、それをやっちゃうとよく髪留め忘れる…んだ、よ……。

タオルをボワッと(畳んでなんかいられない)置いて、手を洗って、のろのろしている客(どんなに時間がないと伝えてもニヤニヤして急がないやつなんなの?)を心の苛立ちを悟られないようにバーッと洗って拭いて、自分の身体を超特急で洗って若干水滴が残ってるのもかまわずズサーッと戻ってきて、そしたらもう(いやちょっとおまえあたしのパンツどこに脱がしたよ!?)でアタマの中いっぱいじゃないですか。はるか昔にベッドサイドの「そのへん」に置いた髪留めのことなんて忘却だよ忘却。

それでも最後の最後にお部屋を見渡す余裕があればよいのですが、視界を遮るかのように立ちはだかってベタベタと抱擁を求める人や何度も何度も「お時間ですので」と申し上げているにも関わらず「あと何分〜?」とすっとぼけやがってなおも身体をまさぐってくるボケカスやメールアドレスもしくはLINEのIDを言わねば帰さぬ!この砦は開かぬ!!と息巻くクズ太郎を宥めるという最後のお仕事にかかりっきりにならざるを得ないこともあるし……。

(ていうかこれうちの店がもっとタオルを潤沢に支給してくれれば解決する話なんだけど、荷物が大きいのは美しくないとかふざけたこと言ってあまり持たせてくれないんだな、タオル入るバッグ買い換えるのがめんどいって言いなよ。素直になれよ)
(あと最初から髪をまとめた状態でプレイできればよさそうだけど、お客さんって、なんか……髪を下ろしてほしがるよね?多少振り乱してほしかったり、自分の指で梳いたり撫でたかったり、髪をほどく仕草を見たかったり、いろいろあるんだと思う)(自分の体液がべったりついた手で撫でてくるやつ大晦日に虫歯痛くなれ)

忘れてきちゃったときって、だいたいはドアを閉めた瞬間、またはエレベーターに乗るあたりで、あっ!!って思いつくんです。あっあれ入れた記憶ない!わすれた!!って。でも、現金でない限り取りには戻れないよね。
なんていうか、せっかくこの数十分間に費やしたあれやこれや、戸惑いや遠慮や苦悩、演技、さまざまな感情さまざまな労働を箱に入れて封をして、時にはムカつきやみじめさも水に流して最高の笑顔作ってドアを閉めたわけだよ。最後のページに震える手で『 – 完 – 』と記したもん覆すわけにゃあいかねえってもんよ。なあ。震える気持ちがよみがえって江戸の人みたいになっちまったよ。江戸の人こんなこと言わない。
別に顔を見たくない相手ばかりってわけじゃないけど、お客さんにとっても戻ってこられるのは負担だろうし、また来て欲しい相手ほどきれいに終わりたい。つまり忘れ物もしちゃダメ!ダメだぞ!絶対ダメだぞ!

と、何年も思ってます。思ってはいます。いますよ。

はじめて勤めた店で、先輩の女子たちがみんなくちばし型を持っていました。これをよくある定番の(とはそのときは知らなかったけど)黒いナイロンバッグの側面に止めていた。そのデザインによって誰のバッグか識別できるという機能も兼ね備えた優れたシステムでした。
くちばしクリップの最大のメリットはいざというとき武器になる(と、自分に言い聞かせることができる)点かもしれません。

(50×90×40mm 26g)
サイズ感、重さ、バネの固さ、なにもかもがちょうどよく優しくできている優等生。

(50×90×48mm 22g)
髪の毛留めてやったぞ感があるのは断然こっち!もはやメカっぽくてかわいい。ガッションガッションと騒々しい音を立てて動いてほしい。

出身地が商品名になってるシリーズ。どちらも持ってます。普通〜やや多めくらいの髪の量ならフランスで十分とまると思うんだけど、ドイツクリップにはなんとも形容しがたい他にないホールド感があり、毛量の多い人のこともしっかり受け止めてくれそうでたのもしい。このギャシィッ!!と掴まれる感触、ハマる人にはたまらないはず。
レビューにある通り、ドイツちゃんはツメの先の造形がマイルドではないので、無造作にとめようとして頭皮にぶつけると痛いです。でも、このクリップの先が頭皮なんかに当たらないくらいの人のための商品なんじゃないのかなーこれ。当たって痛い人たぶんそもそもいらないんだと思う。華奢なみつ編みが作れなくてしょんぼりしたことのある多毛剛毛の民のためのヘアクリップなんだよきっと。

(80×65×50mm)
このシルエット見てるとなぜかムーミンのリトルミィのこと思い出す。

留まったときのカタチがユニークでかわいい。オクトパスって呼び方もあるみたいだけどわたしはオニオンと呼びたい派です。クルクルッとまとめて適当に挟むだけでちゃんと留まるのもえらい。おだんごが作れない長さと量の人、あとやんわりサラサラな髪質の人は厳しいと思います。たぶん留めづらい。あと本体が普通に弱いです、割れやすい。お部屋で2回、お風呂で1回落としたら寿命が尽きます。

(45×76×105mm)
じっと見ていると当時の思い出が次から次へとよみがえってしまう危険なシロモノ。ルノアールが満席でビックカメラの横のマックのカウンター席ですごい小声で面接した、とかそういうどうでもいいことが忘れられない

この価格帯の実用重視で目立たないクリップでは、個人的にはこれがいちばん思い入れがあって好きです。これはだいたい10cmくらいなんだけど、7cmくらいのSサイズもあるよ。むかし池袋駅のハックエクスプレス(ドラッグストア)で売ってて、西口で働いてたころよく買っていました。予備に同じものをいくつもいくつも買っておくことで心の平穏を得ていた。健気だったな……。。

I footnotes
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