気をつけよう、冬のお風呂 〜お客さんが倒れたら?

寒い! こっちだけ脱がせた状態でダラダラ触ってくるやつ全員自宅のエアコン壊れればいいのに!

みんな元気で働いてますか?
冬の寒い時期、心配なことがあります。それは、バスルームでお客さんが倒れること。軽くのぼせて気分が悪くなってしまう程度から、急な血圧の変動で意識を失うような事態まで起こりえます。

ヒートショックとは、暖かい場所から寒い場所へ、寒い場所から暖かい場所へ移動するなど、急激な温度変化が影響し、血圧や心拍数が大きく変化することが原因で起こる健康障害です。

冬はヒートショックにご用心 | 杏林大学医学部付属病院 より

とくに起こしやすいとされる人とは…
・高齢者(65歳以上)
・生活習慣病(糖尿病、心臓病など)のある人
・中でも高血圧の人
・肥満ぎみの人
・飲酒している人

結論:そんな人い〜っぱいいるよ!
自分のお客さんを思い浮かべてみても、半分くらいの人がどれかにあてはまってる気がする。全部の項目を満たしている人すらいます。

こんなことよりも大事なのは長風呂に付き合わされてみんながのぼせないかどうかですが、これは別の記事でねちねちと書きました。大事なので。


脳出血や心筋梗塞などの重大インシデントはめったにないものの、のぼせて立ちくらみくらいだとそれなりにあります。冬は空気が乾燥して体内の水分が奪われやすく、夏ほど水分補給を気にしていないので、寒いのにお風呂で熱中症みたいになっちゃう、ということがあるようです。[*1]最近は「浴室熱中症」という言葉もあるらしい。

どういう不調であれ、本格的に倒れてしまったらまあ店に助けを求めるなり救急車を呼ぶなり、マニュアルがあるならそれに沿って動くんだけど。厄介なのは、明らかに様子がおかしいのに客がくだらないプライドを発揮して助けを拒否、しかし実際問題大丈夫じゃないじゃんどうすんのよ……というやつです。
あるよねそういうの。わたしも救急車を呼ぼうとして「何考えてんだ」「家族がいるんだぞ」と怒られたことがあり、ずっと忘れていません。そんなことを言った時点であんたの名誉など自分で丸潰しだと思うんだけど、なんかあるんでしょうな、守りたいメンツとやらが。

こんな人にはそれ以上なにもしてやる義理などないし、天国でも地獄でも勝手に行ってもらうしかないと思う。
でもわたしは知っています。みんな優しいから、「あの時のあの人どうなったんだろ」ってつい考えたりしてしまうでしょう? 何年も経ってからふと思い出しちゃったり。
その時に「仮にあのあと死んだんだとして、あたしがあんだけ面倒みてやったんだから幸せ者だよね。地獄で感謝しな!」と思えたほうが身体にいいので、最低限の応急処置っぽいことができるにこしたことはないのかなあ、と思うわけです。

あとすっごい万が一の万が一、家族等がぶち切れて、お前がちゃんとしなかったせいであのあと入院したので損害賠償を求める!などと騒ぎ出す…なんてのも絶対にあり得ない話じゃないので、はあ? できるだけのことはやりましたが? と堂々としていられるためにもいいかと思った。本当にいろんな人がいるからね……。
(実際調べてみると、たとえば酔っ払った友だちの介抱が面倒になったから路上で放置して帰ったら死んじゃった、みたいなのがあてはまる保護責任者遺棄罪、というの刑法上の罪がいちおうあり、そうか……と思いました)(さすがに死にそうな人を放置はしないけど!)

完璧な救命処置の話や持つべき心がけではなく、お客さんの具合が悪くなることは起こりうるのでちょっと心の準備しておけるといいよね、ひとりで頑張らず救急車呼んじゃっていいんだよ、という雑談話&わたしの体験談として聞いてください。
たしかにそりゃあ、セックスワーカーに救命や介助の知識があったら助かるケースはあるかもしれない。でも、現状こんなにも社会的立場が不安定なのに、本来の仕事である性的サービス以外の能力を「仕事」として当然に求められるようなことは、わたしは決していいことと思えないからです。全然思えないです。(もちろん個人の考えで救命講習を受けたり、勉強することはすごくいいこと!)

予防するには?

・浴室を暖めておく

ヒートショックに関するウェブサイト、どこを調べてもこれは書いてありました。
具体的には「フタを開けてお湯はりを」と。わかるけど、職場となるお風呂にフタって、もともとあんまりないんだよなあ。
すでにみんな知っているであろう「入る前に熱めのシャワーで壁をあたためておく」くらいしかできなさそうです。でもやらないのとは全然違う(材質によってはバスタブがキンキンに冷えててそこから冷気がきてることもあるよ)。

ホテルだったら、お湯に浸かる予定じゃなくても「シャワーの準備してきますね」でバスルームに行ったタイミングでシャワーからお湯を出して、出しっぱなしにしてもいいと思います。これやってシャワー音を響かせておくと、マナー違反として名高い“シャワー前ダラダラいじくり(しかも未洗浄の手で)”を封じることも、もしかしたらできます。間取りによってはなーんにも聞こえないけど。

・手足などから掛け湯をし、少しずつ体を温める

これもよく書いてあるけど全員やってるよね。いきなり顔面に湯を浴びせてもいいというならそうしたいのはやまやまな案件であっても、じっと耐えて足元からやってるよね。カランとシャワー間違えたふりして冷水をぶっかけたい案件であっても!

心臓系の持病があることが分かっている親しいお客さんには、最初ぬるいお湯をためておいて、しばらく入ってから栓をちょっと持ち上げつつ徐々に熱めの足し湯、みたいなことをやっています。死なれたら困るから。

・入浴前に水を飲む
・飲酒をしない

あー、これもわかるけど、だいたい最初からお酒飲んでるからなあ。心配な人にお茶やお水をすすめるくらいならできるかも。

・浴室内で体を拭く

洗面所が寒い時は、軽く水滴を取るだけでもかなり体感が違うと思います。だいたいは親切だと思ってくれますが、まれにご高齢のお客さんが「介護みたいで情けなくなっちゃった……」と泣きそうになるので、「介護の人はこーんなにラブラブにふいてくれないよっ♡」と流しています。がんばれ。

様子がおかしくなったら

お客さんたち、「具合が悪くなる」ということに対して圧倒的に慣れていない人がずいぶん多いな、という印象を持っています。体調がおかしい、と申し出ることも苦手なうえ、びっくりするほど、自分の不調を言葉で表現できないんです。何がどうおかしいかが言えない。なぜなんだ。男性ジェンダーならではの社会的抑圧のひとつと言えるのかもしれませんが、本人に伝えられるよりもこっちが異変に気づくのが先、ということがけっこうあります。

ときどき話題になる「微熱で子供のように大騒ぎして妻の手を煩わせる夫」も実は紙一重の存在なのかな。大の男の体調不良は一大事と思っているのに、なのに自分自身でケアする発想がない、という点で。とくに50代より上のだんまりっぷりはすごいです。大病を経験したりで解像度が上がってきた人もいる世代なので、比べてしまうと差がえぐい。

意識があやしければすぐ人を呼ぶ

これはもう……そこまでの事態になっちゃたら、まずひとりではどうにもなりません。呼びかけに応えなければすぐ救急車でいいと思います。ホテルならフロントに電話しよう。怒られないから。ホテルの人のほうが経験と知識と事前の準備があって冷静で、だいたいは力もあるはずなので、全員のためになります。

湯船の中にいて、立ち上がれそうになければ、栓を抜く

これは最悪溺れるのを防ぐためです。湯船から患者の身体を出せとか、浴槽のフチに上半身を乗せろといわれることも多いけど、かなり力がいるはずだし無理だろうと思う。ただ、ちょっと目を離した間にブクブク溺れた、というのは絶対に後味が良くないのでね……。栓を抜くならできそうです。

足元がふらついたら、元気そうでも座らせる

倒れるというほどでない場合でも、のぼせたお客さんが脱衣所に出ようとして滑ったり、うずくまろうとして滑ることがあるので、巻き込まれないよう十分に気をつけてください。巻き込まれるの、何よりも怖いです。お互いに、反射的に手を出してつかまろう/支えようとしてしまうから。とてもじゃないけど勝ち目がない。とくにわたしは身体が小さいので、ちょっとでも足元があやしいと警戒して、洗い場があれば座ってもらいます。ユニットバスだとなかなか難しいけど。
(でもね「だいじょうぶ!?座って」と声をかけると、なぜかみんなイスでも床でもなくバスタブのフチに腰掛けようとするんですよ。危なすぎ。人ってそういうものなのかもしれない)

寄り添って支えてあげたくても、倒れようとしている男性を支えて踏ん張るのは危ないです。みんな重すぎる。あなたの安全が第一。


意識もあるし話もふつうにできるけどちょっと具合がよくなさそう、という感じなら、とりあえず座ったり横になってもらって、第三者に助けを求める必要があるか聞いてみるとかかな。微動だにせず辛そうに顔面蒼白で「大丈夫大丈夫大丈夫」って言われたりしますが「それは大丈夫とはいわない」「結果的に死んであたしが捕まったらどうする?」と言ってあげましょう。

軽症で少し休んでもらう場合

ちょっとのぼせただけのときは、横になって足を高くしてしばらく休み、水分を摂るとたいていよくなります。あと足や首を冷やして血管をキュッとさせたりとか。
ベッド(か、なんとかタオルを敷いた床でも)に寝かせることができたら、もうそれだけで上出来だと思います。念のため横向きで寝かせると、万が一急に吐いても窒息しなくて100点。
(自力で水が飲めなければ救急車でいいと思うよ)

日頃の行いが良い人であった場合は、フェイスタオルを水で絞って、足先に巻いてあげるとか顔や首元を冷やしてあげるとかかな……。そしたらもう、善行ポイントが積まれてどんどんいいことが起こるはずです。懸賞に応募しよう。
無事気分が回復したら、もう!心配したんだから!!とツンツンするもよし、おおごとじゃなくてよかった、と健気に微笑んでみせるもよし、おい帰る時間やぞどーすんねん、と延長をゲットするもよし。せっかく業務外のことを頑張ったのだから、なにかあなたの得にできるといいなあ。

余談

体調がすぐれずにいったん休んで、わたしがお世話した客(だったはずの人間)が、無事に気分が持ち直してからアディショナルタイムを要求してきたことがあります。それはちょっと無理ですと伝えたら怒り出し、元を取ろうと乱暴に押さえつけてきて、思い出しても吐き気の事態となりました。後からならいくらでも言えますが、思えば最初から少々オラつきがちな人で、こんなことなら何もせず早い段階で店に電話して「急にお客様の体調がぁ…どうしたらいいのかわからなくてぇ……」などと困り果てた声を出して迎えに来てもらいさっさと帰っておけばよかったと後悔しました。体調が悪いのも本当だったので硬さが足りず強制性交には至らなかった(出禁にはふつうになった)けど、じゃあいいのかっていったらよくないからね。ぜんぜん。体調が悪い状態でありながらそういう行動に出てしまう心理、こわすぎる。

こういう着地になる場合も、まれにとはいえあるわけで。だからって「親切にするのも自己責任」みたいになるのは絶対まじで嫌なので言いたくないんですが、そうなってしまうような客というものは、残念ながらいます。いつでも誰にでも、あなたの親切や心配を100%向けなくたっていい、ということは覚えていてほしいです。キャストの手に負えない雑多な困りごとは店の仕事ですし、キャストのSOSには可能な限り応えるのが仕事なはずです(中にはそうでないとする店もありますが、淘汰されてほしい限りです)。
医療系のお仕事とダブルワークしている人などは、そうもいかなかったりするのかな……でも、あなたに敬意を持って接さなかった人間に、身を削ってまで知識や慈愛や倫理のすべてを捧げなくてもいいときってあるんじゃないかと思うんだよ。だってあんまり悔しいからさ、というわたし個人の勝手な気持ちにすぎないけれど。とにかくみんなが事なきを得ますように。慈悲を発揮したときは、大いに報われますように。

参考にしたページ

References
1最近は「浴室熱中症」という言葉もあるらしい。
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